水を十分補給した後、重い腰をあげ吊り橋を渡る。いきなり45度もあろうかという急斜面である。ここから20分程が全行程の中でもっともきつい部分であった。私達のひよわな足ではとても登りきれないと、四つん這いでのろのろと進む。
俯いて自分の足下に気をつけるのが精一杯なのだが、時折顔を上げてみると先頭のガイドがとんでもなく高い所(つまり先に急傾斜があること)にいるのを見て『見なければよかった』と後悔する。が、またしばらくすると『緩やかな斜面があるのではないか』という淡い期待に顔をあげてしまい後悔する。こんなことを際限無くくり返しながら斜面を登って行くのだった。
今回我々を案内してくれた例の52歳のおじさんは我々全員を情けなくさせる為に雇われたのではないかと思わせるほど軽快に先頭を取ったり後方に下がったり気を使ってくれる。
しかし実際問題、ガイドとしての経験はあまりないのに違いない。次の休憩地点までどのくらいの距離か、このペースで行けば何時間ぐらいで着くのかという質問にちっとも正確に答えられない。
したがって彼の提供する『あと一時間』とか『あと1.5マイル』という言葉にぬか喜びし、失望といっそうの疲労を味あわされるのだ。最後の休憩から出発し、おじさんの予想タイムを大幅に超えた頃、少し広い林道に到着。
これはすぐ近くに来たかなと思って尋ねると、『あと2マイルかな』。幸い月明かりがあるので歩けるが、山中の6時と言うのはもうすっかり暗闇である。
この時ばかりは温厚な私も腹が立った。怒っても仕方がないから黙っていたが実は暗闇の中で怒りの炎が燃えていたのだ。